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骨粗鬆症と栄養

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骨粗鬆症を予防する栄養素

将来的な骨粗鬆症の発症を予防するには、成長期により多くの骨量を獲得する必要があります。
しかしながら、現在の我が国においては、この時期に十分にカルシウムを摂取できているとはいい難い状況です。

骨代謝が正常に行われるためには、材料となるコラーゲンやカルシウムの他に、ビタミンDなどが不可欠です。
そのため、食事による栄養補給が骨の健康のために欠かせません。

加齢に伴う骨粗鬆症には、少食による栄養不足やカルシウム不足の影響があります。
また、日本人は慢性的にカルシウム摂取が不足していることがわかっています。

そして、骨粗鬆症を考えるうえで無視できない要素に体重の軽さ、つまり「痩せ」があります。
痩せている人は食事量が少なく、栄養不足だったり栄養が偏ったりする傾向にあります。

近年はメタボリックシンドロームなど、体重が重すぎることへの弊害が強調されることが多いですが、低体重も健康にとってはよくありません。
決して無理なダイエットをしないようにすることが大切です。成長期のダイエットは、骨量を増やす妨げとなり、後々骨粗鬆症を来たす可能性が高くなります。

閉経期になると、カルシウム摂取量だけでみると、若年成人よりもむしろ摂取量が多い場合もありますが、体重増加のために食事量を減らしたり、コレステロールを気にするあまり牛乳を飲まなくなったり、極端な糖質制限を行う方が散見されます。
この時期は、バランスのよい食事をこころがけ、骨の健康に必要なカルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどの多い食品の摂取をとるようにすることが大切です。

骨粗鬆症とサプリメント

サプリメントとは、健康食品の1つです。
健康食品が「健康の保持増進を目的とした食品全般」を指すのに対して、サプリメントは「特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品」のことを一般的に指します。

健康食品は、

  • 特定の機能の表示などができるもの (保健機能食品)
  • そうでないもの (いわゆる健康食品)

の2つに分けられます。

保健機能食品は、さらに特定保健用食品 (通称トクホ) 、栄養機能食品、機能性表示食品の3種類に分類されます。
いわゆる健康食品には、機能性食品、栄養補助食品、サプリメントなどが含まれます。

サプリメントでも、1日に必要な栄養成分 (ビタミン、ミネラルなど) の補給のために科学的根拠が確認された栄養成分が一定以上含まれていれば、栄養機能食品と表示されます。
また、サプリメントは役割や目的により、栄養の不足を補うベースサプリメント、健康の維持、増進を目的としたヘルスサプリメント、特定の症状の改善を目指したオプショナルサプリメントの3つに分類されます。
聞いたことがあるかもしれませんが、代表的なものは以下になります。

分類成分
ベースサプリビタミン、ミネラル、アミノ酸、食物繊維、DHA、EPA。
ヘルスサプリイソフラボン、ローヤルゼリー、セサミン、カテキン。
オプショナルサプリウコン、マカ、グルコサミン、ブルーベリー。

骨粗鬆症に関するサプリメントに関しては、骨量減少のメカニズムから考えれば、エストロゲン様作用、抗炎症作用、抗酸化作用、カルシウムバランスの改善などを通じて、閉経後骨量減少を緩和することが期待されます。
それでは、1つずつ詳細に説明していきます。

ベースサプリメント

① カルシウム

カルシウムは、骨のミネラル成分の主な構成要素で、体重の約1-2%を占めています。
成人男性の体内には約1000グラム、成人女性には約700グラムのカルシウムが含まれ、その99%が骨や歯に存在し、1%が血液や組織液、細胞に含まれます。

カルシウムは、成人の骨ではリモデリングにより毎日200mgのカルシウムが出し入れされています。
また、カルシウムは経口摂取されると、主に小腸上部で吸収されます。
おおよそ30%が吸収され、血中カルシウム濃度は比較的狭い範囲で保たれています。カルシウム濃度が低下すると、副甲状腺ホルモン (parathyroid hormone: PTH) の分泌が増加し、骨吸収が増加します。

カルシウムは、骨リモデリングの速度に影響し、高齢者では1000mg以上の摂取によりその速度が10-20%低下するとされ、わずかですが骨密度増加が期待されています。

骨は、常に骨吸収と骨形成を繰り返しており、骨を強くするためには骨形成を増やして骨吸収を減らす必要があります。
そして、骨形成をふやすためには十分な量の材料、ここではカルシウムが必要です。また、骨吸収を減らすことも同時に重要です。

カルシウムは骨にとって重要ですが、体全体にとっても重要なため、血液中のカルシウム濃度は一定に保たれるよう厳密に調整されています。
カルシウム摂取が少なくなると、骨吸収が増えますので、骨から溶けでるカルシウムで血液中のカルシウム濃度が保たれます。
つまり、十分な量のカルシウムを摂取することは、骨形成をふやして骨吸収を減らすことにつながります。

厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準 (2015年版)」によると、日本人の1日のカルシウム摂取量は約500mg、骨粗鬆症の治療には800-1000mgのカルシウム摂取が推奨されています。
そのように考えれば、大多数の方がカルシウム不足になります。

理想的には食事からの摂取が望ましいのですが、たとえば牛乳が飲めなかったり、小魚などを毎日たべることが困難な方は、骨粗鬆症予防のためにカルシウム製剤やサプリを摂取することをおすすめします。
医療機関では、粉末や錠剤のタイプで処方されることが多いです。

薬であっても、サプリメントであっても、副作用は単体ではまれです。
ただし、後述する活性型ビタミンD3製剤と併用している場合は、高カルシウム血症に注意する必要があります。

② ビタミンD

ビタミンDには、2つの取り込み方があります。
1つは、皮膚に存在するプロビタミンD3が日光中の紫外線によりプレビタミンD3となり、体温によってビタミンD3となったものです。
もう1つは、天然型ビタミンDと呼ばれています。これは食事から摂取されるもので、植物由来のビタミンD2 (エルゴカルシフェロール) と動物由来のビタミンD3 (コレカルシフェロール) が含まれます。

カルシフェロールは、肝臓で25-ヒドロキシビタミンD (25-hydroxyvitaminD: 25(OH)D) に、つづいて腎臓で活性型である1,25-ジヒドロキシビタミンD (1,25-dihydroxyvitaminD3: 1,25(OH)2D) に代謝されます。

1,25(OH)2Dは、ビタミンD受容体と結合し、小腸や腎臓でのカルシウムとリンの吸収を促進するとともに、副甲状腺での副甲状腺ホルモンの分泌を抑制して骨の成長と形成をすすめます。

日本人の多くは、カルシウムと同様にビタミンDが不足しています。
さらに、高齢になるとビタミンDの肝臓や腎臓の活性化能が低下します。

医療機関で処方されるビタミン剤には、活性型ビタミンD3製剤があります。
ちなみに薬局やドラッグストアで売られているビタミンDサプリは非活性型となります。

活性型ビタミンD3の骨粗鬆症治療薬は、カルシトリオールやアルファカルシドールと呼ばれる化合物です。近年よく処方されているものとしては、骨吸収を抑制し骨形成を促進することで骨折予防効果の高いエルデカルシトールがあります。
よって、骨粗鬆症の予防を目的とした市販のビタミンDサプリを摂取する効果は、医療機関で処方される薬ほど期待できないと考えます。

高齢になると、ビタミンDが減少する傾向があります。
これは食事からの摂取量が減ることと、室内に閉じこもりがちになるために、紫外線によるビタミンDの合成が低下することによります。さらに、合成機能そのものが低下することも関係します。

体内に取り入れられたビタミンDは、肝臓や腎臓で活性型ビタミンDに変わります。この活性型ビタミンDによって、腸管からのカルシウム吸収量が高まります。
すなわち、ビタミンDが不足していると、たくさんのカルシウムをとっても十分に吸収されないということになります。

厚生労働省は、ビタミンⅮの摂取目安量を、成人の男女ともに「1日5.5μg」としています。
ビタミンDを豊富に含む食材は、魚です。
特に、いわし、さんま、さばといった青魚になります。たとえば、めざしなどを丸ごと食べると、ビタミンDとカルシウムが同時にとれて食事が効率よくなります。

③ ビタミンK

天然のビタミンKには、いくつかの種類があります。
なかでも特に重要なのが、動物性食品に広く分布する「MK-4」と「MK-7」です。MK-7は、納豆菌が産生することで広く知られています。

骨芽細胞が産生するオステオカルシン (osteocalcin: OC) が、ビタミンKをγ-グルタミルカルボキシラーゼによって、カルボキシル化OC (cOC) に変換します。

cOCは、カルシウムと結合し、ハイドロキシアパタイトと結合し強固な骨を形成します。
ビタミンKが不足すると、カルボキシル化の程度が低い低カルボキシル化OC (unarboxylated OC: ucOC) は、骨に結合せず血中に移行し骨形成が阻害されます。

ビタミンK不足によって上昇する血中ucOC濃度が、骨折リスクと密接に関係することがわかっています。
「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版」では、骨粗鬆症の治療には「250-300μgのビタミンK摂取」が推奨されています。

また、ビタミンKには「K1」と「K2」があります。
K1は、ほうれん草やモロヘイヤなどの緑黄色野菜や海藻などに多く含まれます。

K2は、主に微生物によってつくられ、納豆などの発酵食品に多く含まれています。

ごはんを主食にして、納豆、ほうれんそう、魚の干物や大根おろしや卵、のり、などのような日本の伝統的な献立は、塩分に気を付ければ非常にバランスが良く、ビタミンKやカルシウムをバランスよく摂取することが可能です。

④ ビタミンB6 / ビタミンB12 / 葉酸

骨のコラーゲンは、加齢や酸化ストレス、糖尿病などさまざまな要因で劣化が進みます。

ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸の不足は全身のコラーゲンの劣化を進行させることで、骨粗鬆症や骨折リスクが上昇したり、心筋梗塞や脳卒中のリスクを増したりします。
食事で満足に摂取できない場合は、サプリなどで補うこともオススメします。参考までに各成分を多く含んでいる食べ物を紹介します。

栄養素の種類多く含んでいる食べ物
ビタミンB6まぐろ、バナナ、ナッツ。肉や魚に多い。
ビタミンB12牛レバー、牛乳、あさり、しじみ。肉や魚、貝などの動物性食品。
葉酸ほうれんそう、モロヘイヤ、そら豆、卵。緑黄色野菜に多い。

⑤ オメガ3脂肪酸

一部の研究結果では、骨密度の増加効果が示されています。
これは、腸管からのカルシウム吸収の促進と骨形成促進、骨吸収抑制作用によるものと考えられています。

人間をはじめとした哺乳動物は、体内でオメガ3系脂肪酸を合成できません。
そのためこれを、必須栄養素として食物から摂取する必要があるのです。

オメガ3系脂肪酸は、主に魚の油に多く含まれており、エイコサペンタエン酸 (eicosapentaenoic acid: EPA) やドコサヘキサエン酸 (docosahexaenoic acid: DHA) は、抗炎症作用や心血管保護作用などの健康増進効果を有しています。

ヘルスサプリメント

ここでは、代表的なヘルスサプリメントとして大豆イソフラボンを紹介します。

大豆イソフラボン

閉経後女性を対象とした12のRCTによるメタアナリシスでは、
「大豆イソフラボンを6-12ヶ月摂取することで、腰椎骨密度が増加した」
と報告されています。
その反面、大腿骨近位部では効果が認められていません。

大豆イソフラボン類は、エストロゲン (女性ホルモン) に類似した構造を持っており、濃度や組織によってはエストロゲンと拮抗した作用を示します。すなわち、骨粗鬆症治療薬の1つである選択的エストロゲン受容体モジュレーター (SREM) と似たような作用を示します。

オプショナルサプリメント

乳塩基性タンパク質 (Milk Basic Protein: MBP)

健常な閉経性女性に乳塩基タンパク質を6ヶ月投与した研究で、腰椎骨密度増加率がプラセボ群に比較して有意に高かった、という報告があります。
このMBPは、骨形成に対しては促進的に、骨吸収に対しては抑制的に作用して、骨密度と骨強度を改善することが示されています。

骨粗鬆症のサプリメントについては、こちらの「骨粗鬆症のサプリメント」ページでより詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

サプリメント摂取に関しての注意

上記で紹介した各サプリメントのなかでも、骨粗鬆症や骨の健康が気になる方にとって最も摂取されているサプリは、

  • カルシウム
  • ビタミンⅮ

この2つだと思います。

しかしながら、サプリメントとしてのカルシウム、ビタミンⅮの閉経後の骨量減少予防および治療効果は、わずかにとどまります。
あくまで、他の骨粗鬆症治療薬と併用して (ベースサプリメントとして) 利用することが望ましいでしょう。

その他のサプリメントに関しても、骨粗鬆症治療薬の効果を超えるものはありません。
薬剤との組み合わせによって、効果が減弱したり症状が悪化する場合もあるため、躊躇なくサプリメントの使用を中止することも必要です。

骨によいとされるサプリメントや保健機能食品には、沢山の種類があります。
ただし、サプリメントに過剰な期待は寄せるべきではありません。ましてや、食事の代わりになったり、薬と同等な効果があるわけでないのです。

カルシウムとビタミンⅮを同時に摂取すると、吸収率が上がりますが、さらに骨がつくられるにはコラーゲンなども必要です。
骨を強くするためには、毎日の食事の中でさまざまな栄養素を摂取する必要があります。
サプリメントは、あくまでこれらの栄養素が足りない場合に補助する役割と捉えて、上手に摂取するようにしていきましょう。

骨粗鬆症の栄養指導

骨粗鬆症の方に対しての栄養指導のポイントは、以下の5つです。

  1. 適切なカロリー摂取と、適度なタンパク質摂取を心がけること。
  2. カルシウム、ビタミンⅮ、ビタミンKの3大栄養素を充分に摂取すること。
  3. 骨質に影響を与えるビタミンB群を、不足しないようにすること。
  4. 減塩を心がけること。
  5. 喫煙、過度の飲酒、大量のカフェイン摂取を控えること。

量は少なめにし、食品や料理の種類をできるだけ多くとるようにしましょう。

バランスのよい食事の基本は、
「1回の食事を主食/主菜/副菜に分けて、それぞれを多種類の食品で組み合わせること」
です。

骨粗鬆症の食事療法

骨粗鬆症に対しての食事療法は、高血圧や慢性腎臓病などの生活習慣病に対する食事療法と共通点があります。
特に骨粗鬆症患者の多くを占める高齢者に対しては、適切なエネルギー摂取、言い換えれば体重管理が不可欠です。

次に、タンパク質の摂取量を確保すること、さらにカルシウムやビタミンⅮなど骨に必要な栄養素の摂取が重要となります。
骨粗鬆症の治療薬を用いていても適量のカルシウム、ビタミンⅮの摂取は必要です。定期的に血中濃度を評価してもらいましょう。

本来は、栄養管理は管理栄養士が中心になって展開できればよいのですが、実際の現場では医師や看護師など、他職種の方が栄養管理を行っている場合が多いです。
カルシウムとビタミンⅮだけとっていればよいというわけではなく、サルコペニア、フレイル、ロコモティブシンドロームなどを見据えた栄養管理が必要です。

また、低栄養やフレイルの予防も合わせて重要です。
食事療法や栄養管理とともに、体重や身体組成 (除脂肪量、骨格筋量) も測定できれば、より効果的と言えます。

【参考文献】

金光 廣則

投稿者: 金光 廣則

投稿者: 金光 廣則

2009年、大阪市立大学医学部卒業後、名古屋第二赤十字病院で研修。大阪に戻りPL病院、リハビリ病院などで研鑽を積む。急性期から慢性期まで経験し、手術だけでなく在宅医療にも携わる。2021年、むつみクリニックを継承開業。